夫が初観劇の感動を書き綴ったレポート【前編】

 

宝塚ファンのわたしがファン歴5年目にして初めて夫と共に観劇をした2018年3月10日。初観劇に選んだのは月組公演、カンパニー/BADDY。

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正直虎視眈々と狙っていた夫の宝塚デビューではあるが、私が月組を贔屓としていること、現代劇なら取っかかりやすく見てもらえるだろう、ショーのBADDYはアウトローな男達が魅力的なことを理由に誘い出してみた。

注意:旦那はバイクやアクション映画を愛し、服装も革ジャン・ウォレットチェーンを着用*するようなアウトローを好物とする宝塚とは真逆の世界を生きる男である。*最近、高橋一生で一躍有名になった週刊誌叩かれコーデ参照。

 

そんな彼が初観劇の感動をなぜかレポートとして書きまとめてくれた。以下、そのレポートをこの場で紹介させてもらう。心温かく読んでいただければ幸いです。

 

 

【宝塚…】

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それは、わけのわからねぇナルシズムを醸し出し、ド派手な格好をして妙な声域で喋って踊るだけのゲテモノショーだと思っていた…そう…昨日までは…

 

これでも幼少の頃から劇団四季や歌舞伎、近所の町民会館で催される演劇の鑑賞をそれなりに嗜んできた私は、エンターテインメントには少々口うるさいと自負していた。

 

…そう、井の中の蛙の私は、調子に乗っていた…完全に、宝塚をナメていたのだった…昨日までは…

 

もともと演劇が別段好きではない私は、数年前に某有名人主演のクソくだらなくて全然おもんない舞台を観せられて以来、

 

『二度と演劇なんか見るかぃっ!😡』

と演劇に拒絶反応を示してしまい毛嫌いしていた…「ましてや、宝塚なんぞ!」と。

 

だが、もういい大人だし、食わず嫌いという可能性は無いにしても、1回くらいは観劇してもバチは当たらないんじゃないかということで宝塚デビューを飾るのであった…私が大好きな映画、デモリションマンの世界観と一緒という前情報だけを頼りに…

 

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観劇には一切期待していなかったのだが、宝塚大劇場、またはその周辺はどことなく優雅で気品に溢れ、こちらの背筋までピンと伸びるような感覚であった。

 

さながらディズニーランドのような、

いや、それともまた違う独特の世界観と空気に私の胸がドキドキしていたのも事実であった。

 

全てが優雅だ。

 

そしていよいよ劇場内へ。女性用トイレの大行列を尻目に、優雅なシャンデリアや大階段を目にした私は内心テンションが上がらざるを得ない状態に。『撮るでしょ、写真』と。係員のオジ様も優雅な紳士。

 

何度も言うが、優雅だ。

 

【さぁ 劇が始まった】

ミュージカル・プレイ『カンパニー -努力、情熱、そして仲間たち-』

 

デモリションマンと同じ世界観というBADDYの情報を混同したせいで途中まで置いてきぼりを食らってしまった。

 

わけのわからぬまま観ていたのだが確かに伝わるのだ、華やかさだけではない並々ならぬ努力の結晶が。儚く熱いなにかが。

 

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音楽は全て生オケ、男よりかっこいい男装の麗人、とびきりの美女たちが華やかにキレッキレで舞っていたのだ。なにかよくわからないが。終始。

 

男役を初めて目の当たりにしたとき、私は松田優作のこんな言葉を思い出した。

 「ヤクザは24時間ヤクザだから怖いんだよ」

 

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これは24時間芝居のことだけを考えていた松田優作の名言なのだが、彼女ら、いや、彼らは24時間かっこいい男であり続ける為にどこまでもストイックに生きている。かっこいい男を演じているのではなく、存在そのものがかっこいいのだ。だから説得力が段違いなのである。

 

【まずこの主人公であるアオヤギ青年】

彼は妻に先立たれるが一途に妻を想い続けるような誠実で不器用な男である。

昨今のSNSなどとも縁遠いような、生まれてくる時代を間違えたどこまでも真っ直ぐな男である。おまけに腕っ節も強いときた。

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彼は言うのだ。

「英語教師だった夏目漱石は、アイラブユーを今夜は月が綺麗ですねと訳したのです。

日本人は面と向かって、私はあなたを愛しているとは言いませんからね。」と。

 

彼の人柄とこのセリフがガッチリと噛み合い、私は川平慈英のような状態になってしまったのだった…

 

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【そんなアオヤギ青年の対となる存在】

『世界の恋人 高野悠』というプリンシパルが登場するのだが…

…先に言っておくが、彼こそが宝塚初観劇の私をもっとも夢中にさせた立役者である。

 

このプリンシパル、只者ではないと思っていたが、やはり人間としての魅力が半端ではないのであった…

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彼はスーパースターなのだが、アオヤギ青年に比べて身長が低くガリガリである。いわゆるロックンローラー体型とでも言うべきか。

 

彼が舞台に立てば緊張感が生まれる。

 悪魔のように大胆で天使のように繊細な彼はなにか得体の知れない魅力で溢れている。

 

1人だけ危ういオーラを身に纏っていた。

 

長年身体を酷使したせいで、彼の身体は限界も限界であった。それでなのか、姿勢の良い他のジェンヌさんたちに比べ、心なしか姿勢が悪く見える。

 

ただ、この男に限っては、低身長で華奢、姿勢が悪いというのがプラスに働いている。この男の佇まいからなる言動全てが規格外の格好良さとなっている。

 

この男から感じられるものは『男の美学』と『不良の美学』であった。 キャラクターとして、キザでストイックなだけでは魅力はない。 かっこいいだけの人間、強いだけの人間などに魅力は皆無なのだ。

 

では、この男はどういった人物なのか?

 

彼は冒頭、パパラッチのハニートラップにかかってしまう。 その気になれば弁明はできたし、誤解を解けたと思うのだが彼はしなかった。 ただ一言、

 

『言い訳するのは嫌いなんだ』

 

といかにもな男らしいセリフを吐き捨てたのである。

 

これは一見、男らしさを強調するセリフにも取れるのだが、私が思うに、 彼はただ単純に『めんどくさかった』だけではなかろうか?

 

弁明する労力が無かったのではなかろうか?

 

人間なら誰しもが持っている、めんどくさいという感情を、言い訳は嫌いだとカッコつけて言っただけの気がしたのだ。

 

だが裏を返せば、「そんな労力があるなら命をかけているバレエに使いたい。」 …こうも聞こえてくるからこの男は不思議である。 ストイックな彼なら当然こう思っていてもおかしくない。 このようなイマイチつかめないところも、彼ならではの『男の美学』、『不良の美学』といったところか…

 

また、違う場面ではアイドルの小僧に、

 

『別に君たちを馬鹿にしているんじゃない、自分が命をかけてきた世界に足を踏み入れてほしくないだけだ…』

 

とか言ってウィーンへ帰国してしまったり。 ハタから見れば、拗ねて家へ帰る駄々っ子にしか見えないし、結局なにが言いたいのかもよくわからない。

 

彼はカッコいいのにカッコ悪い、強いのに弱い、ストイックなのに不健康と、どこか表裏一体な部分が目立つ。

この危うさが人間としての魅力を極限まで高めているような気がしてならない。

 

この高野悠という人物を演じている美弥るりかくんは天才なのではなかろうか。

 

そう感じざるを得ない。

 

クセのある台詞回し、他のジェンヌさんにはないワンテンポあるかないかくらいの手癖や足癖のある動きで観客を魅了してやまない。

 

彼女じゃなければこれだけ魅力のある高野悠はいなかったであろう。 そして忘れてはならないのがアオヤギ青年が主人公だからこそ高野悠が舞台で輝くということ。

 

【逆もまた然り】

この2人もまた表裏一体であり、光と陰でもあり、ニコイチなのである。

 

さながらドラゴンボールの悟空とベジータとでも言うべきか。 …なんだろうこの不思議な感覚は… …

 

後に聞いたのだが、これが俗に言う『コンビ萌え』というやつらしい…

 

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マジか。これがコンビ萌えか。

 

と、まぁこのように宝塚の洗礼を受けた私であった。

 

彼女たちには拍手だけではなく、

『粋でゲス!』

『乙でゲス!』

と心から伝えたい。 だが、私は彼女らにこの湧き上がる気持ちを3分の1も伝えることができないし、純情な感情は空回りしてしまうだけなのだった…